は じ め に
 『健康』のための運動とはいっても、漠然とした『健康』というだけでは、必ずしも長期にわたって継続することは容易ではありません。「やせるため」とか「キレイに泳げるように」とか「腰痛の予防」といったハッキリとした目的も必要でしょう。そんな目的に適うように、各章毎にテーマ設定をしています。


第10章 栄養と運動
■10-1 カラダを動かすエネルギー
 三大栄養素といわれるのは炭水化物(糖質)と脂質と蛋白質の三つです。そのうち蛋白質は主に組織の再生や修復に役立ち、カラダを動かすエネルギー源となるのは、炭水化物と脂質の二つが主なものです。炭水化物は、グリコーゲンとして筋肉中や肝臓に、脂質は多くが皮下脂肪として蓄えられています。使われる優先順位は、(1)筋肉中のグリコーゲン(2)肝臓中のグリコーゲン(3)脂質です。筋肉中のグリコーゲンは、アデノシン三燐酸になり直接的な筋収縮のエネルギー源として使われます。筋肉中のグリコーゲンが少なくなると肝臓のグリコーゲンが筋肉の不足分を補います。肝臓のグリコーゲンまでもが不足してきたときにはじめて皮下に蓄えられている脂質がエネルギー源として使われます。

 運動によって脂質が使われるためには最低でも20〜30分間の運動継続後ということになります。そんなことから減量目的に運動をする場合に「最低20分以上の継続的な運動をしないと脂肪は燃えない」という言い方をします。このことは、運動によって体重をコントロールしようという場合に非常に大切は要因です。

 短時間の運動でも筋肉中や肝臓中に蓄えられたグリコーゲンが使われますから、不足分は、何らかの形で補給されなければなりません。一般的には外部からの食事という形によります。外部からの補給(食事)が無ければ、脂肪が補給源として使われます。運動によって消費されたグリコーゲンを脂肪の分解によって体内で補給する前に食事を摂ると、体内脂肪は温存されます。食事を摂らなければ脂肪は燃焼します。一般的に運動後1時間程度はエネルギー摂取を避けると、運動による減量効果が期待できます。

 カラダを動かすエネルギー源である炭水化物や脂質の燃焼工場は“筋肉”です。筋肉量の多いヒトの方が筋肉量の少ないヒトよりも多くのエネルギー源を必要とします(基礎代謝が高い)。基礎代謝の低いヒトは、脂質の燃焼工場が小さいですから、減量しようとしたときには、ウエイトトレーニングによって筋肉量をふやす必要があります。



■10-2 体重増減の基本
 体重増減の基本は「摂取エネルギー」と「消費エネルギー」との収支です。摂取エネルギーが消費エネルギーよりも多ければ、余剰エネルギーは皮下脂肪として貯蓄されます。消費エネルギーの方が多ければ皮下脂肪は減少します。
※ 摂取エネルギーの吸収率は個人によって異なります。同じ食事をしてもすべてを吸収するヒトとそうでないヒトがいます。

 今現在、体重が増えもせず減りもせずしている場合には、摂取と消費との収支はバランスが保たれているということですから、ウエイトコントロールをする場合には、それを基本にして体重の増減を図ります。
 毎日の食事をカロリー計算し続けることは至難です。
 最近、健康への関心が高まり、ファミリーレストランのメニューやコンビニエンスストアの弁当類など多くの食品に栄養成分やエネルギー量が記されています。購入時にそのエネルギー量を常に気にすることによって、どのような食品がどの程度のエネルギー量を持っているかが分かるようになってきます。そうなってくると自分で作った食事やエネルギー量の表示の無い食品でも「大体どのくらい」と判断がつきます。
 コンビニのおにぎりで180〜240、平均で200kcal程度でしょうか。これを目安にして体重増減を図るとしましょう。
脂質が1gで9kcalですから、単純に200÷9≒22g。
毎日、おにぎり一個分の食事を減らせれば、計算上は22g×365日≒8000gですから一年間に8kgの体重減少が可能です。現実的には、さまざまな要因が付加されますから必ずしもその通りにはいきませんが・・・・・・
 ジョギングをしたとします。体重50キロのヒトが1kmジョギングをすると50kcalのエネルギー消費です(70kgだと70kcal)。4kmジョギングすると200kcal(50×4)。脂肪が1gで9kcalですから、単純に200÷9≒22g。
 毎日、4km走れば(体重50kgとして)、計算上は22g×365日≒8000gですから一年間に8kgの体重減少が可能です。現実的には、さまざまな要因が付加されますから必ずしもその通りにはいきませんが・・・・・・。


■10-3 体重コントロール
 減量するためには、摂取したエネルギー以上に消費しなくてはなりません。しかし、運動をせずに食事を減らして摂取エネルギーを減らすだけとか、逆に食事(摂取エネルギー)を変えずに運動だけで体重を減らそうとしても現実的にはきわめて難しい。
 また、短期間で急激に体重を減らそうとすると栄養バランスが崩れたり、恒常的な低血糖になり健康を損ねることが少なくありません。
 単に体重を減らすのではなく、脂肪を燃焼させて体脂肪率(体重に占める脂肪の割合)を減少させてこその体重コントロールです。体重は落ちても、かえって筋肉を減らしてしまったり、汗をかいて水分欠乏の体重減少などはまったく意味を持たないばかりか健康に支障をきたします。

 まず、食欲のメカニズムを理解しましょう。腹一杯食事をすると満腹感がありますが、胃袋が満タンになると食欲中枢が満腹信号を出すわけではありません。また、胃袋が空っぽになると空腹信号を発するわけでもありません。食欲中枢が満腹信号や空腹信号を出すのは、血糖値によります。食事によって血糖値があがると満腹信号が発せられます。

 『早食いは太る』 口から摂った食事が糖質に分解されて血糖値を上げるには相応の時間がかかります。早食いは、血糖値が上がる前にたらふく食べてしまいますから太ります。ごく少量ずつ出てくる懐石料理などは、ゆっくりと時間をかけて食べますから、少量でも結構満腹感はあります。

 『食べてすぐ寝るとブタになる』 どうしても朝や昼の食事に比べて夜はご馳走です。しかし、育ち盛りの子供はさておき、一般的には夜は寝るだけ。食事によってあがった血糖値。血液の中の糖質は使うことがありませんから行き場所を探します。ヒトのカラダの生体反応で、すぐ使わないものは貯蓄します。貯蓄するには高エネルギー低質量の脂質に代える方が効率的です。皮下脂肪として貯蓄します。
※ 脂質とせずに炭水化物や蛋白質として貯蓄しようとすると、脂質に比べて倍以上の重量になります。


■10-4 脂肪を燃え易くする
 血糖値は、満腹感や空腹感と密接に関連しますが、脂肪の燃焼にも大きくかかわります。健康的な体重コントロールは、体脂肪率を落とす、即ち脂肪を燃やすことです。決して汗をかいて水分欠乏での体重減少や無理なダイエットでの筋肉磨耗であってはなりません。
 カラダを動かすためのエネルギー源は直接的には筋肉内の糖質(グリコーゲン)です。筋肉内の糖質が少なくなると肝臓に貯蔵された糖質が使われ、さらに体内の脂肪が糖質に変わって動員されます(脂肪の燃焼)。筋肉内のグリコーゲンが少なくなってくると血液中の糖質も少なくなります(血糖低下)。血糖値が下がるとそれを補充するために脂肪の燃焼が始まります。ですから、脂肪の燃焼をスムーズに行うためには血糖値を低めに誘導することが大切です。

 『朝、食事前の運動は脂肪を燃え易くする』 食事後、1〜2時間後が血糖値は最大になります。血糖値が高いときに運動をして脂肪を燃やそうとしても、なかなか血糖値が下がらず脂肪が燃えるまでにはなりません。血糖値の低い空腹時の運動は脂肪燃焼には効果的です。
※ 血糖値が低いときのハードなトレーニングは危険です

 『運動直後のエネルギー補給は脂肪燃焼を阻害する』 運動後には血糖値が低くなっていますから、それを補うために脂肪燃焼が続いています。運動直後のエネルギー補給(食事や飲み物)は、血糖値を上げる働きをしますから、脂肪燃焼を阻害します。運動終了後1時間程度はエネルギー補給を避けたほうが脂肪燃焼効果は大きくなります。但し、運動中や運動直後の水分補給は大切です。ミネラルを多く含んだノンカロリーのドリンクを摂りましょう。

 『同じエネルギー量なら回数多く摂る習慣を』 一日のエネルギー摂取量が同じであれば、回数多く分けて食べるほうが、血糖値を低めに誘導できるので脂肪燃焼はし易くなります。相撲取りは一日2回の食事です。


■10-5 エネルギーの源
 エネルギーの源となる「炭水化物(糖質)」「脂質(脂肪)」「蛋白質」を三大栄養素といいます。健康な食事のためには、どのような割合でそれぞれの栄養素から摂取するかが大切なポイントです。アメリカなどではこの比率が「50:30:20」、日本では「65:20:15」とかいわれます。日本の食事も欧米化し、脂質の比率が増加傾向です。逆にアメリカでは日本食が健康に良いということから、一部で極端な炭水化物指向が強まっているといいます。

 脂質はそれ自体を摂らなくても、ほとんどが炭水化物を含む食べ物で合成することができます。従って成長や代謝に必要とされるリノール酸以外の脂質は通常の食生活を送っている限りは必要十分な量を得ていますから、改まって摂る必要はありません。脂質はビタミンの代謝に必要なものではありますが、特に飽和脂肪酸の多量摂取は血液の粘性を高め、心疾患につながります。

 蛋白質は筋組織の形成や修復に必須ですが、一般的な食事で十分に摂取できるはずです。筋肉が蛋白質を主成分としているという理由から運動選手などは過剰に蛋白質を摂る傾向がありますが、体重1kgあたり毎日2g以上の蛋白質を過剰に摂ると腎臓に負担をかけますから気をつけなければなりません。また、蛋白質を多く含む食品(牛肉/卵/牛乳など)は、一般的に高脂肪です。

 炭水化物は、活動のエネルギー源ですから、不足無く摂りましょう。勿論、摂りすぎは体重増加につながります。炭水化物の恒常的な不足は、直接的に慢性体調不良や倦怠感を引き起こします。

 エネルギーの源である炭水化物と脂質、蛋白質の摂取割合を考えることは重要です。活動的で健康な生活を築くためには、できるだけ“高炭水化物低脂質”な食事を心がけましょう。

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