は じ め に
 『健康』のための運動とはいっても、漠然とした『健康』というだけでは、必ずしも長期にわたって継続することは容易ではありません。「やせるため」とか「キレイに泳げるように」とか「腰痛の予防」といったハッキリとした目的も必要でしょう。そんな目的に適うように、各章毎にテーマ設定をしています。


第7章 トレーニング
7-3 トレーニングの目的と種類

  のんびりと自転車をこいでみましょう。徐々にスピードを上げると、心拍数はそれに連れて上がっていきます。目安として、鼻呼吸だと苦しいようだと心拍数は100を超えているかもしれません。
 この調子なら30分とか1時間はこぎ続けられます。これが成人の方に最も好ましい有酸素的運動です。30分とか1時間といった比較的長い時間持続できる運動(有酸素的運動)では、血圧上昇というリスクも少なく、糖尿病や高血圧、高脂血症といった生活習慣病の改善や予防にも役立ちますし、心肺循環機能の向上は加齢と共に進行する動脈硬化の進行を妨げます。

 もう少し、スピードを上げてみましょう。心臓が結構ドキドキしてきました。太腿にもだるさや疲労を感じ出します。太腿の筋肉に乳酸が蓄積してきた証拠です。鼻だけでの呼吸ではとても間に合わず、口での呼吸です。乳酸は筋収縮によって発生する老廃物で一定以上に溜まると筋収縮はできなくなります。
  心拍数も100をゆうに超えています。運動がATレベルまで近づいています。この辺りから心拍数の上昇カーブが緩やかになってきます。心拍数が上がり難くなってきた分、血圧が上がり始めます。無理をしないように気をつけて!


※AT……アネロビックスレッショルド(Anaerobic Threshold)の略で日本語では「無酸素作業閾値」と訳されます。徐々に筋肉内に溜まり出した乳酸の量 が、あるレベルから急激に上昇します。これをATレベルといって、運動が酸素を使う有酸素的運動から酸素の供給が追いつかない無酸素的運動に切り替わる境界線です。  

     ATレベルの公式は… AT=(220―年齢―安静時心拍数)×0.75+安静時心拍数


頑張って更にこぐスピードをあげます。息はゼイゼイ、心臓はバクバク、腿もパンパン。とてもではありませんが長時間続けることはできません。1〜3分が限度です。こぐのをやめてもしばらくは心拍数が下がりません。これが無酸素的運動です。成人の方には余り必要なトレーニングではありません。


7-4 AT(無酸素作業閾値)と虚血性心疾患

   トレーニングは、大まかに強度が低い順から有酸素的運動⇒ATレベル運動⇒無酸素的運動に分けられます。ATレベルの運動を細分化し“ATトレーニング”と“LTトレーニング”とに分けることもあります。ATトレーニングは、「乳酸が溜まらないようにするトレーニング」で、LTトレーニングは「溜まった乳酸に耐えるトレーニング」といえます。ここでは、まとめてATレベル運動としています。
  無酸素運動も二つに分けて考えることができます。全力で自転車をこいだように1〜3分程度の非常にキツイ運動が一つ。もう一つは、更に短い5秒とか15秒程度のスプリント運動(ダッシュ)です。心拍数が上がったり乳酸が溜まる前に終わってしまう最も瞬発的な運動です。

  ATについてもう少し考えてみましょう。ATレベル以下だと楽々と運動を継続することができますが、ATを超えると長い時間(30〜1時間以上)運動を継続することは困難になってきます。
  狭心症とか心筋梗塞とかに代表される虚血性心疾患(心筋への血流不足)を持つ方にとっての安全な運動強度の目安が“AT以下”。AT以下での運動療法によって心機能の改善が期待でき、同時に心電図の異常は報告されません。虚血性心疾患以外にも高血圧、糖尿病などの生活習慣病の運動療法としてもAT以下での無理の無い長い時間の運動は推奨されています。
  虚血性心疾患の方と健常な方とのATレベルを比べると大きな差異はありません。しかし、ATレベルを超えて最高心拍数に近づくような運動時の余力は心疾患の方と健常な方とでは大きく異なります。健常な方は運動中に苦しさを感じたら、ペースを落としたり休んだりすれば良いのですが、心疾患の方は、「苦しい」と感じたときには発作の危険を誘発しています。それだけに自分のATレベルを把握し、運動がATレベルに達しないように十分に注意をしなければなりません。
  心疾患の無い方でも、継続的運動経験の履歴が短く、体力にあまり自信の無い方は、やはり潜在的なリスクを回避するという意味において、ATレベルを超えないような運動強度を心がけましょう。

 


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