は じ め に
 『健康』のための運動とはいっても、漠然とした『健康』というだけでは、必ずしも長期にわたって継続することは容易ではありません。「やせるため」とか「キレイに泳げるように」とか「腰痛の予防」といったハッキリとした目的も必要でしょう。そんな目的に適うように、各章毎にテーマ設定をしています。


第4章 スタート・ターン
●飛込みによる頚椎損傷・・・・・・・(1)
 水泳は他のスポーツと比べて安全なスポーツです。しかし、飛込みによる頚椎損傷という至って重篤な結果を引き起こす可能性は秘めています。飛び込みをする場合には、プールの底に頭をぶつける事故だけは決して起こさないようにしなければなりません。
飛込みによる頚椎損傷事故発生のメカニズムを知ることは、同様の事故の防止に役立ちます。

1.プールが深ければプール底への衝突事故は起こり得ません。飛び込み技術が未熟で“腹打ち”でも衝突事故は起きません。事故が起きるのはそこそこの熟練者です。

2.飛び込み台から水面までの距離が長ければ長い(スタート台が高い)ほど重力加速が大きくなり、危険は増します。

3.入水角度が大きければ大きいほど危険は増します。

もう一つ、飛び込み事故発生の大きな原因があります。事故例を検証してみると後頭部をプール底に強打しての頚椎損傷が多く見られます。何故、後頭部をぶつけるのでしょうか?後頭部をぶつけるということは、カラダが前方回転するような何らかの力が働いたはずです。

入水時のカラダの角度とその時の運動ベクトルと水面とが成す角度とが一致しています。飛沫もさほど立たないきれいな飛込みです。後頭部をぶつけることは有り得ません[図1]。
入水時のカラダの角度よりも運動ベクトルと水面とが成す角度の方が大きくなっています。カラダの上面(背中側)より下面(腹側)の圧の方が大きいので、上方向にカラダをに浮かび上がらせるような揚力が発生します[図2]。


●飛込みによる頚椎損傷・・・・・・・(2)

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入水時のカラダの角度よりも運動ベクトルと水面とが成す角度の方が小さくなっています。カラダの下面(腹側)よりも上面(背中)の圧の方が大きいので、下向きにカラダを沈み込ませるような揚力が発生します[図1]。
このカラダを沈み込ませるような揚力がカラダを前転させます[図2]。後頭部をぶつけるメカニズムがわかりました。
入水時のカラダの角度と運動ベクトルとの相関がわかりました。これはカラダに限ったことではありません。特に掌や指先の「入水角度と運動ベクトル」も大きく影響します。もし、飛び込み時に掌(指先)を丸めて飛び込めば事故は不可避です。逆にカラダ全体の入水角度と運動ベクトルが危険な状態であっても指先が正しく保たれていれば事故の可能性は大幅に減少します。
入水時の掌や指の状態はとても大切です。左右の手を組んで[写真1]の飛び込みをしている方が少なくありません。左右の手先を組むと、さきほどの例からもわかるようにどうしても掌は丸まり気味になり危険です。左右の指先をまっすぐに伸ばして(緊張させて)飛び込むようにしましょう[写真2]。

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(注)アクラブでは特別に設定した「飛び込みレッスン」時以外での飛び込み(逆飛び込み)は事故防止の為禁止させていただいています


●流線形(ストリームライン)
 飛び込みやプッシュオフ、ターンの直後は、スピードが最高です。世界最速の泳者でもこのスピードに勝つことはできません。長水路(50m)プ−ルよりも短水路(25m)プールの方が記録が良くなる所以です。もし、直後のスピードを最後まで落とさず泳ぎつづけることが可能であれば、世界記録は大幅に短縮します。しかし、現実には、大きな水の抵抗を受けてスピードは瞬く間に落ちていきます。スピードが速いだけに受ける抵抗も半端ではありません。

「何の為にターンをするの?」と訊かれて、有るオリンピック選手は即座に「スピードを上げるため」と答えたそうです。私達凡人は恐らく「行き止まりだから」と答えるでしょう。折角のスタートやターン直後のスピードの減少率ををいかに小さくしてゴールなり次のターンなりに結び付けるかが非常に大切です。そのためには徹底的に流線形(ストリームライン)を作ります[写真1]。

手先を組んで頭上にまっすぐに伸ばし、
腰の凹みを最小限(背骨をまっすぐ)にし、
足先を揃える(又は足先を組む)。

上手な泳者は、スタート(ターン)直後のスピードを生かして浮きあがり、そのまま泳ぎにつなげます。


●重心移動距離と慣性

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 スタートでもターンでも重心移動の距離は最短にすべきです。
 その意味でターンは[写真1]のようになるはずです。しかし、鋭角的な方向変換があると重心移動のスピードが“0(ゼロ)”になってしまう瞬間ができます。これはハンデです。慣性の法則に照らしても運動は円運動が自然です。スピードが“0”にならないように、円運動で方向転換を図りましょう[写真2]。但し、円の回転径が大きいと回転が遅くなりますから、できるだけ小さな回転径です。
 図では横方向からだけで示していますが、円の描き方は平面的に見ず、前後、上下、左右方向から三次元的に捉える習慣を付けましょう。

 スタートでもターンでも重心移動の距離は最短にすべきです。その意味でスタート(飛び込み)は[写真3]のようになるはずです。しかし、入水時の抵抗が大きいと減速要因として働きます。入水時の抵抗を最小に、且つ重心移動距離も最短に。そのバランスをとった入水角度です[写真4]。

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